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データをもとに持ち家・賃貸の損得を考察

本記事では友人からの寄稿記事です.

背景

「今は "VUCA” な時代である.」

こんな言葉を耳にする機会が増えてきている.現在の社会環境が極めて予測困難であることを Volatility (変動)・ Uncertainty (不確実)・ Complexity (複雑)・ Ambiguity (曖昧)の頭文字で表現した造語である.この社会において,いかにリスクを軽減にして過ごすかは人生にとって重要なテーマの1つである.

プライベートにおいて代表的なリスクとして,持ち家の購入が挙げられる.賃貸は一定額を支払うことで居住できるが,支払ったお金は消費となるため資産として残らない.一方で,持ち家を購入した場合,支払ったお金の大半を資産として残せる.しかし,持ち家が何らかの理由で失われたり,災害などで地域の価値が下がった場合,資産の価値としては下がる.持ち家の購入に際して住宅ローンの融資を受けていた場合は,資産よりもローン負債が上回ることで家計の破綻につながるリスクがある.

本記事では,データをもとに持ち家と賃貸のそれぞれの資産価値の期待値を算出することで,損得を評価する.

確率に関する前提

確率に対する考え方は各人の人格形成・経験・チャレンジ精神などにより異なるため,本記事では確率の高い低いといった言及を避ける.

ここで,世界で最も有名なスポーツ選手の1人である元 NBA プレイヤ マイケル・ジョーダンのエピソードを示す.

1985年,彼が NBA に入ってすぐにリーグを代表するプレイヤーに成長したが,2年目のシーズンはじめに大きな怪我を負ってしまう.本人は早期復帰を望んでいたが,経営陣は「同じ箇所を怪我する確率は10%」,「同じ箇所を怪我した場合は選手生命が立たれるリスクがある」と考えていた.所属するシカゴ・ブルズのオーナー ジェリー・ラインズドルフはジョーダンに対して,早期の復帰を止めるため後世に語り継がれる説得を行った. 「もし頭痛がして10錠の薬を飲んだとする.そのうち1つがシアン化物(毒物)でコーティングされていたらその薬を飲むかい?」 ラインズドルフは,10%の確率で将来の莫大な収入や名声を失うことのリスクをジョーダンに伝えたかった.ジョーダンは「頭痛はどのくらいの痛さ?その頭痛がどのくらい酷いかによるな」と答えた.  本人は足の怪我によって自分は沈むようなタマではない,と伝えたかったと思われる.その後,本人は早期復帰を果たし世界を代表するプレイヤーに成長した.

このように,人によってリスクと確率の捉え方が異なる.筆者が確率をもとに最適解を提示することもできるが,確率に対する考え方が人に異なる以上,読者にとっての最適解に必ずしもならない.そのため,データを示すことで読者の意思決定を支援することに留める.

期待値の算出に関する前提

持ち家と賃貸を比較する上で,期待値の算出に関する前提を示す.なお,以下に記載した前提以外は検討の対象外とした.(※ 1のデータは文献を参照)

  • 持ち家の住宅価格は4554万(※1)
  • 購入価格はすべて住宅ローンにより支払う.
  • 住宅ローンは30年固定金利1.6%
  • 土地価格は2950万(首都圏の地価総平均は平米単位で平均39万3460円/m2 × 75m2で算出)(※1)
  • 建物資産の減価率は20年で0円となるように計算
  • 建物の解体費用200万を建物資産が200万以下となる年から計上
  • 住宅ローン控除で年40万が控除されるように計算(実際は控除された対象額によっては年10万以上の誤差になる可能性もある)
  • 住宅維持費として毎月3万を貯蓄
  • 固定資産税(資産 × 標準税率1.4% × 小規模住宅用地特例措置(1/6))
  • 土地価格は10年で17%ずつ30年にわたって減少(※1)
  • 地震保険は年38900円(※1)
  • 地震保険を適用した時に全半損認定される(時価総額の60%が保証)
  • 震度7の地震が2回来ることで全半損となる(新建築基準法の基準を参考)(※1)
  • 首都圏において,南海トラフ地震・首都直下地震が発生した時に震度7が観測される
  • 南海トラフ地震・首都直下地震の発生確率はデータ引用.引用したデータは10年毎となるため,年毎は等倍で確率が増えるものとし筆者にて補完.(※1)
  • 賃貸は月15万(30年で持ち家購入時の住宅ローン総額と一致する賃貸額として算出)
  • 30歳に資産取得,平均寿命である82歳までを算出期間.(住宅ローン30年,平均寿命から仮定)(※1)

持ち家と賃貸の期待値を計算

データを算出すると,確率や費用に関するリスクの考え方が分かれる可能性がある点が見られた.そのため,3つの観点でデータを示し,読者が判断すべき点をまとめた.

観点1:支払い額

82歳までに支払う金額から検討項目を洗い出す.

持ち家の場合

82歳までに約7844万が支出(内訳:住宅ローン5742万 + 地震保険 年38900円 + 住宅維持費 年36万+固定資産税 - 住宅ローン減税)

賃貸の場合

82歳までに9540万が支出(内訳:月15万 × 12ヵ月 × 30年(持ち家の場合の住宅ローン年数))

上記の計算の前提として,30年で持ち家の住宅ローン総額と賃貸で支払額をほぼ同額になるように計算しているため,賃貸が高くなるのは当然である.このデータから考えられる検討項目は以下である.

持ち家と賃貸の差額が約1696万円である点

持ち家を持つことで1696万得すると考えるか,賃貸によって1,696万で損失リスクを背負わなくてよいと考えるか.

賃貸で損失を少なくする方法はあるかという点

月15万としているが支払い額を月12.5万とすると持ち家と同額の支出になる.ただし12.5万とすると,東京市部や近郊でも1LDK(50m2)程度落とすなど,立地・設備条件等に妥協点を見出す必要がある.

観点2:残り資産

各年で倒壊した時に残る資産額から考える.

計算方法

持ち家は,1年目は4554万の資産を所得し住宅ローン総額5742万を背負うことから「-1188万」を残り資産と考える. 賃貸は,1年目に持ち家の住宅ローン総額5742万を資産として持ち,1年毎に月15万 × 12ヵ月=180万ずつを減算していくものと考える.

持ち家の場合

27年後(2047年)に残っている資産額(1485万)>住宅ローンの残債(574万)+支払ってきた維持費用(保険料・住宅維持費・固定資産等)となる.その後,資産価値は減り,維持費用は毎年かかり続けるため38年後(2058年)に残っている資産額<支払ってきた維持費となり,平均寿命となる52年後(2082年)には残り資産が-686万となる.

賃貸の場合

持ち家の住宅ローン総額5742万から毎年180万ずつ減額されていき,平均寿命となる52年後(2082年)には残り資産が-3798万となる

持ち家と賃貸で残り資産が逆転するタイミング

30年後(2050年)には残り資産額が逆転する.すなわち,持ち家の残り資産(残っている資産額 - 支払ってきた維持費用(保険料・住宅維持費・固定資産等)) >賃貸の残り資産 となるタイミングである.その後は持ち家のほうが維持費が低いため,持ち家の残り資産が上回る状態が続く.

このデータから考えられる検討項目は以下である.

持ち家が27年後(2047年)~38年後(2058年)の間に資産を手放した場合,支払った総額よりも高い利益が得られる(ローン残高は手放す時点で支払うものとし考慮しない).この時,資産というリスクを手放し賃貸に切り替えるか.もしくはそのまま住み続けて低い維持費を継続して支払っていくか.

持ち家と賃貸で残り資産が逆転する30年後(2050年)まで,あらゆる可能性を考えて持ち家を維持できると考えるか(台風・水害のリスクをどう考えるか、近隣トラブル・転勤・居住条件の変化により住み続けることができなくなったなど)

観点3:平均寿命までの損益に関する期待値

首都圏に大きな影響を及ぼすとされている2つの地震で持ち家が倒壊すると仮定し,平均寿命までの損益の期待値を算出する.

データの前提にも記載したが,2015年資料発表であることから,2015年を起点に地震の発生確率は以下の考えで算出した.

  • 首都直下地震が30年以外に70%の確率で発生
  • 南海トラフ地震がそれぞれ以下の確率で発生
    • 10年以内に20%
    • 20 年以内に45%
    • 30 年以内に65%
    • 40 年以内に80%
  • 両地震が発生したときに全半損発生(建物資産が0となり保険額受け取り)
  • 引用したデータは10年毎となるため,年毎は等倍で確率が増えるものとし筆者にて補完

確率に対して,持ち家と賃貸の資産差額(持ち家残り資産 - 賃貸残り資産)をかけ合わせ,0以上となれば持ち家にリスクがメリットが大きく,0以下になれば賃貸にメリットが大きいと判断できる.

計算式は,

期待値 = 1年目の持ち家と賃貸の資産差額 × 1年目の両地震発生確率
    + 2年目の持ち家と賃貸の資産差額 × 2年目の両地震発生確率
     ・・・
    + 52年目の持ち家と賃貸の資産差額 × 52年目の両地震発生確率

平均寿命までの期待値

上記で計算すると,52年目(2082年)の平均寿命82歳までは期待値は0以下になり,賃貸のほうがメリットが大きいという結果が得られた.

持ち家がメリットになる年齢

もう1つ別の結果についても示す.仮に期間を平均寿命から6年伸ばし,88歳までで計算すると初めて期待値は0以上に転じ,持ち家のほうがメリットが大きいという結果が得られた.内閣府によると,2060年に男性の平均寿命は84.19歳となっているというデータがある.今後,2082年に平均寿命がいくつになっているか想定を超えないが,今よりも年齢が高まっていくことは確かであろう.

このデータから考えられる検討項目は以下である.

平均寿命までに2回で地震が発生し,持ち家が倒壊した場合は,賃貸のほうがよいという結果となる.結果を覆すためには,居住する年齢を88歳以上まで伸ばすか,持ち家自体を倒壊しないように設計できるか.

現在首都圏に震度7の地震が2回発生する前提としているが,生涯同じ地域に2回以上発生することがあるかどうか.

初期費を増やしたり,ローンの前倒し返済をすることで,どの程度負債を背負った状態である期間を短くできるか.

その他前提を変更できるものはあるか.

まとめ

持ち家と賃貸の損得を3つの視点で数値的なデータを示した.いずれの結果に対する最終的な損得判断は読者に委ねるが,今後も ”VUCA” な時代であることは確かだ.引き続き,他の検討項目から出せるデータがないか検討していきたい.

文献